第2回 日本語は、子どもたちのルーツになる

海外で子育てをしながら、
「子どもに日本語を続けてほしい」
そう願っているのに、どう続けたらいいのか分からない。

そんなママへ。

はじめまして。
カナダ在住17年、2児の母。
元小学校教師として11年間勤務し、現在は補習授業校教師、継承語教育アドバイザーとして活動している理恵です。

このコラムでは、
「子どもに日本語を続けてほしい。でも、親子バトルにはしたくない。」
そんなご家庭に向けて、
細く、長く、日本語が続いていく「おうち日本語」
をテーマに、継承語教育の考え方と、毎日の暮らしの中で実践できるヒントをお届けしています。

今回は、前回お伝えした「おうち日本語を続けるための7つの土台」の1つ目。

日本語は、子どもたちのルーツになる

というお話です。

「ルーツ」と聞いて、何を思い浮かべますか?

「ルーツ」と聞くと、どんなことを思い浮かべますか?

生まれた場所。
家族の歴史。
受け継がれてきた文化。
名前に込められた意味。
食べ物、行事、考え方、ことば。
きっと人によって、「ルーツ」という言葉の捉え方は少しずつ違うと思います。
私自身も、子どもが生まれるまでは、自分のルーツについて深く考えることはあまりありませんでした。
旧姓の意味や家紋、先祖の話を父から少し聞いたことはありました。
青森県八戸市の出身で、母方の祖母には津軽の血が流れている。
そんな話を聞いたことはあっても、正直なところ、それ以上深く考えることはありませんでした。

カナダで子育てをして、見えてきたこと

カナダに移住してから、その感覚は少しずつ変わっていきました。
夫の家族の中には、ご先祖の記録や、代々受け継がれてきた物、家族の話が自然に残っています。
そうした話に触れるたびに、私はふと考えるようになりました。
「私は、どこから来たんだろう」
「子どもたちには、何を伝えていきたいんだろう」
「この子たちにとって、日本はどんな存在になるんだろう」

海外で子育てをするようになって初めて、自分の中にある日本語や日本の文化が、ただの知識ではなく、子どもたちにつながっていく大切なものなのだと感じるようになりました。

ルーツは、子どもの「根っこ」になる

私が考えるルーツとは、単に「日本に関係がある」ということだけではありません。
ルーツとは、子どもが自分自身を知っていくための根っこのようなもの。
自分はどこから来たのか。
自分にはどんな文化や家族の歴史がつながっているのか。
自分の中には、どんな言葉や価値観が流れているのか。
その根っこの一つとして、日本語があります。
海外で育つ子どもたちは、日々、現地の言葉や文化の中で成長していきます。
現地校では現地語。
友だちとの会話も現地語。
習い事も、動画も、本も、生活の中心は少しずつ現地語になっていきます。
それは自然なことです。
そして、とても大切なことでもあります。
子どもたちは、その土地で生きていく力を育てているからです。
でも一方で、日本語は家庭の中で意識して残していかなければ、少しずつ遠くなっていくことがあります。

日本語があることで、つながれるもの

日本語が分からなくなると、ただ言葉が一つ減るだけではありません。
日本にいる祖父母や親戚との会話。
日本の行事や絵本、歌に触れたときの感覚。
お母さんが子どもの頃に見ていた景色。
家族の中で受け継がれてきた言葉や思い。
そうしたものに触れる入口が、少しずつ狭くなっていくことがあります。
もちろん、日本語が話せないからといって、ルーツがなくなるわけではありません。
日本語が苦手でも、日本につながる気持ちや家族のつながりは残ります。
でも、日本語があることで、子どもが自分のルーツに触れる道は、確かに広がります。

「日本語が話せないことが悔しい」

私の住む地域に、日系人の方がいます。
もう70代の方で、日本語は話せません。
時代的な背景もあり、日本語を受け継ぐことが難しかった世代です。
その方が、以前こんなことを話してくれました。
「日本に親族がいて、自分のルーツをたどる旅をすることがある。
でも、日本語が話せないことは悔しい。」
この言葉を聞いたとき、私はとても考えさせられました。
言葉は、ただの勉強ではありません。
言葉は、人とつながるためのもの。
そして、自分の背景を知るための入口にもなります。

続けてきた日本語が、誇りになる日

また、ある教え子がこんな話をしてくれたこともあります。
「日本語を勉強してきて、本当に良かったと思っています。
辞めたいと思ったことがなかったわけではないけれど、続けさせてくれて感謝しています。
今では、日本語を続けてきたことに誇りを持っています。」
日本語を続ける途中には、きっと楽しいことばかりではありません。
宿題が嫌になる日もあります。
漢字でつまずく日もあります。
現地語の方が楽だと感じる時期もあります。
親子でぶつかってしまうこともあります。
それでも、細く長く続けてきた日本語は、子どもが大きくなったときに、ふと意味を持ち始めることがあります。
小さい頃は分からなかったけれど、
10代になって、
大人になって、
日本を訪れたとき、
祖父母と話したとき、
自分のルーツについて考えたとき、
「ああ、日本語を続けてきてよかった」
そう感じる瞬間があるかもしれません。

おうち日本語は、今すぐの結果だけではない

だから私は、おうち日本語は「今すぐ結果を出すためだけのもの」ではないと思っています。
今すぐ漢字が読めるようになること。
今すぐ作文が書けるようになること。
今すぐ日本語だけで会話できるようになること。
もちろん、それも大切です。
でも、それ以上に大切なのは、子どもの中に
「日本語は自分とつながっていることば」
という感覚を残していくことではないでしょうか。
日本語は、ママのことば。
家族のことば。
日本にいる人たちとつながることば。
自分の背景を知るためのことば。
未来の選択肢を広げてくれることば。
そんなふうに、日本語が子どもの中に残っていったら、それはとても大きな財産になると思います。

ママは、日本語への扉を開く鍵になる

そして、継承語としての日本語を育てていくうえで、私はやはり、ママの存在はとても大きいと思っています。
もちろん、ママが全部背負わなければいけないという意味ではありません。
日本語を続けることも、子育ても、ひとりで頑張り続けるものではありません。
家族の協力、環境、仲間、先生、地域のつながりも大切です。
でも、毎日の暮らしの中で、子どもに一番近いところから日本語への入口を残していけるのは、やはりママであることが多いのではないでしょうか。
日本語の絵本をそっと手に取る。
日本の歌を一緒に口ずさむ。
「これ、日本語ではこう言うんだよ」と伝える。
祖父母と話す時間をつくる。
日本の行事や食べ物を、暮らしの中に少しだけ取り入れる。
そうした一つひとつは、とても小さなことに見えるかもしれません。

でも、その小さな関わりが、子どもにとって
「日本語って、ママとつながることばなんだ」
「日本語って、自分の家族とつながることばなんだ」
「日本語って、自分のルーツに触れることばなんだ」
という感覚につながっていきます。
私は、ママは子どもに日本語を無理やり背負わせる人ではなく、
子どもがいつか自分のルーツに戻りたくなったときに、その扉を開けられるように、そっと鍵を手渡していく人だと思っています。
ママが手渡す日本語の鍵は、すぐには使われないかもしれません。
小さい頃は、ただ聞いているだけかもしれません。
小学生の頃は、面倒くさいと感じるかもしれません。
10代になったら、少し距離を置く時期もあるかもしれません。
それでも、子どもの中に日本語への鍵が残っていれば、大きくなったときに、自分でその扉を開ける日が来るかもしれません。
日本にいる家族と話したいと思ったとき。
自分の背景を知りたいと思ったとき。
日本を訪れたとき。
将来の学びや仕事、人との出会いの中で、日本語が必要になったとき。
そのときに、
「あ、私の中にも日本語が残っている」
「僕は日本ともつながっている」
そう思えることは、子どもにとって大きな支えになるはずです。
だからこそ、ママが日本語を大切に思うこと。
ママが日本語をあきらめずに、でも苦しみにしすぎずに、暮らしの中に残していくこと。
それは、子どもの未来にそっと鍵を手渡していくことなのだと思います。

家庭でできる、小さなルーツの育て方

では、家庭では何ができるのでしょうか。
特別なことをしなければいけないわけではありません。
日本語の絵本を読む。
日本の歌を一緒に聞く。
日本の行事を少しだけ取り入れる。
おばあちゃんやおじいちゃんと日本語で話す時間をつくる。
日本の食べ物の名前を伝える。
子どもの名前に込めた思いを話す。
ママの子どもの頃の話をしてみる。
そういう日常の小さな積み重ねが、子どもの中に「自分は日本ともつながっている」という感覚を育てていきます。
大切なのは、日本語を完璧に教えることではありません。
日本語を通して、子どもが自分のルーツにあたたかく触れられる時間を、家庭の中につくっていくことです。

細くても、長く続けていく

おうち日本語は、毎日きっちり勉強しなければいけないものではありません。
親が全部教えなければいけないものでもありません。
まずは、暮らしの中で日本語が自然に戻ってこられる場所をつくること。
その小さな積み重ねが、子どもの未来につながっていきます。

次回予告

次回は、
「日本語は、親子をつなぐコミュニケーションツールになる」
というテーマでお届けします。
日本語は、勉強のためだけのものではありません。
親子の会話、気持ちのやりとり、家族の時間をつくるための大切なことばでもあります。
一緒に考えていきましょう。
海外で子育てをしながら、日本語を続けることは決して簡単なことではありません。
でも、毎日の小さな積み重ねは、きっと子どもの未来につながっていきます。
このコラムが、おうち日本語に悩むご家庭の「今日からやってみよう」のきっかけになればうれしいです。
それでは、また次回お会いしましょう。
そして、これからメルマガ配信も少しずつ始めていきます。
おうち日本語のヒントや、コラムでは書ききれないお話もお届けしていきますので、楽しみにしていただけたらうれしいです。
ルーツとしての日本語で、子どもの未来と家族をあたたかく。
理恵

著者プロフィール

理恵|継承語教育アドバイザー
カナダ在住17年、2児の母。元小学校教師として11年間勤務し、現在は補習授業校教師として子どもたちに日本語を教えている。
継承語教育を専門的に学び、継承語教育アドバイザー・幼児日本語教師として、海外で子育てをする家庭に向けて、おうちで無理なく日本語を続ける方法や、10代まで見据えた継承語教育について発信している。
「子どもの未来とルーツが豊かになる日本語教室 りんごっこサークル」を主宰。

ルーツとしての日本語で、子どもの未来と家族をあたたかく。
Instagram:@rie.ouchi.nihongo

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