第3回 日本語は、親子をつなぐコミュニケーションツールになる

こんにちは。

カナダ在住17年、2児の母。
元小学校教師として11年間勤務し、現在は補習授業校教師、継承語教育アドバイザーとして活動している理恵です。

このコラムでは、
「子どもに日本語を続けてほしい。でも、親子バトルにはしたくない」
そんな海外子育て中のご家庭に向けて、細く、長く、日本語が続いていく「おうち日本語」をテーマに、継承語教育の考え方と、毎日の暮らしの中で実践できるヒントをお届けしています。

前回は、「おうち日本語を続けるための7つの土台」の1つ目として、
「日本語は、子どもたちのルーツになる」
というお話をしました。

今回は、7つの土台の2つ目。
「日本語は、親子をつなぐコミュニケーションツールになる」
というお話です。

日本語は、子どもに教える「勉強」や「教科」である前に、親子が気持ちを伝え合うための大切なことばです。
では、親にとっての日本語は、どのような存在なのでしょうか。
今回は、日本語が親子の関係にどのようにつながっているのか、一緒に考えてみたいと思います。

日本語は、ママの心に近いことば

海外で暮らしていても、多くの日本人ママにとって、日本語は幼い頃から使ってきたことばです。
うれしいときに自然に出てくることば。
子どもを心配するときに浮かぶことば。
励ましたいときや、大切なことを伝えたいときに、いちばんしっくりくることば。
もちろん、現地語でも気持ちを伝えることはできます。
それでも、細かな感情や自分らしい言い回し、ことばの奥にある温度まで伝えようとすると、母語である日本語のほうが自然に表現できることも多いのではないでしょうか。
日本語は、単に情報を伝えるためだけの道具ではありません。
ママの経験や記憶、価値観、文化的な背景ともつながっている、心に近いことばなのです。

日本語で話すことは、親子の時間をつくること

おうち日本語というと、
「ひらがなを覚えさせなければ」
「日本語の本を読ませなければ」
「きちんと日本語で答えさせなければ」
と、学習の面に意識が向きやすくなります。
けれど、日本語を続ける目的は、読み書きができるようになることだけではありません。
「今日は学校で何があったの?」
「それはうれしかったね」
「悔しかったんだね」
「ママはあなたのことを大切に思っているよ」
そんな毎日の会話も、すべておうち日本語です。
親子で笑ったり、ふざけたり、ときには意見がぶつかったりしながら、気持ちをやりとりする。
その積み重ねによって、日本語は「勉強するもの」ではなく、「家族とつながるためのことば」になっていきます。

子どもが現地語で返してきても大丈夫

海外で子育てをしていると、ママが日本語で話していても、子どもが現地語で返事をすることがあります。
そのたびに、
「日本語で言って」
「どうして日本語を話してくれないの?」
と言いたくなることもあるかもしれません。
けれど、子どもが日本語を聞いて理解し、会話が続いているのであれば、親子のコミュニケーションは成立しています。
まずは、会話を止めないことが大切です。
子どもが現地語で答えても、ママは自然な日本語で返す。
子どものことばを、日本語で言い換えて返す。
正しさよりも、伝えようとしてくれた気持ちを受け取る。
たとえば、子どもが、
“I was so nervous.”
と言ったら、
「すごく緊張したんだね。でも、最後までできたんだね」
と、日本語で返すことができます。
このようなやりとりを重ねることで、子どもは日本語の表現を自然に耳にしながら、
「ママには安心して気持ちを話せる」
という感覚も育てていきます。

日本語を嫌いにさせないことも大切

日本語を身につけてほしいという思いが強いほど、つい間違いを直したり、言い直しを求めたりしたくなるものです。
けれど、親子の会話がいつも訂正や練習の時間になってしまうと、子どもにとって日本語が、
「間違えてはいけないことば」
「注意されることば」
「頑張らなければ使えないことば」
になってしまうことがあります。
すべてを直す必要はありません。
話の内容を楽しみながら、ママが自然な日本語を返すだけでも、子どもは少しずつ表現を吸収していきます。

大切なのは、日本語を話すことより先に、子どもが、
「ママに話したい」
「ママに聞いてほしい」
と思える親子関係を育てることです。

今日からできること

特別な教材がなくても、親子をつなぐ日本語は、毎日の生活の中にたくさんあります。
食卓で、今日あったことを一つ聞く。
子どもの気持ちを日本語で言葉にする。
一緒に笑った出来事を家族で話す。
寝る前に「今日も楽しかったね」と声をかける。
こうした短い会話も、すべて日本語を育てる時間です。
日本語は、子どもに覚えさせるためだけのものではありません。
親子が気持ちを伝え合い、家族の時間を重ねていくための大切なことばです。
いつか子どもが大きくなったとき、日本語ができること以上に、
「日本語でママとたくさん話した」
「日本語で笑った」
「日本語で気持ちを分かってもらえた」
という記憶が、子どもの中に残っていくのではないでしょうか。
焦らず、比べず、まずは今日のひと言から。
日本語を、親子をつなぐあたたかなコミュニケーションツールとして育てていきたいですね。

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海外で子どもの日本語を育てていると、
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次回予告

次回は、
「小さいうちから、日本語のシャワーを浴びせることが大切」
というテーマでお届けします。

「日本語のシャワー」とは、ただたくさん話しかけることではありません。
子どもの年齢や興味に合わせながら、家庭の中で自然に日本語に触れる機会を増やすためのヒントを、一緒に考えていきます。
海外で子育てをしながら、日本語を続けることは決して簡単なことではありません。
でも、毎日の小さな積み重ねは、きっと子どもの未来につながっていきます。
このコラムが、おうち日本語に悩むご家庭の「今日からやってみよう」のきっかけになればうれしいです。
それでは、また次回お会いしましょう。
ルーツとしての日本語で、子どもの未来と家族をあたたかく。
理恵

著者プロフィール

理恵|継承語教育アドバイザー
カナダ在住17年、2児の母。元小学校教師として11年間勤務し、現在は補習授業校教師として子どもたちに日本語を教えている。
継承語教育を専門的に学び、継承語教育アドバイザー・幼児日本語教師として、海外で子育てをする家庭に向けて、おうちで無理なく日本語を続ける方法や、10代まで見据えた継承語教育について発信している。
「子どもの未来とルーツが豊かになる日本語教室 りんごっこサークル」を主宰。

ルーツとしての日本語で、子どもの未来と家族をあたたかく。
Instagram:@rie.ouchi.nihongo

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